お薬トピックス

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お薬手帳について

About medicine notebook

お薬手帳ものがたり

知っているようで意外と知らないお薬手帳についての歴史や変遷、 現在の状況についてお話しします。

お薬手帳の歴史

第一幕

1993 年(平成 5 年)日本の医療史の中で、 極めて重大な事件が起こりました。
「ソリブジン事件」です。
当時はまだお薬手帳は存在せず、他の病院で飲んでいる薬は、患者さん自身が申し出ない限 り分からない時代でした。
その 年ヘルペスウイルスの治療薬としてソリブジン(商品名ユースビル)という薬が発売されました。従来薬と比べて優れた効果があると期待され、発売当初からよく使われるようになりました。
しかし5-FUという抗がん剤との併用することで重篤な副作用が起きることが分かり、死亡例も報告されました。
一緒に使わところが別の病院でその薬を飲んでいることに気づかないままこの 2つの薬が一緒に使われ、 結局 14 人の副作用による死亡が発生してしまったのです。
この事件を教訓にお薬手帳が使われ始めましたが、 まだすぐに利用が広がるということはありませんでした。
1995 年に阪神淡路大震災が起きて多くの人々が被災し家財を失いました。
その時に服用中の薬が分からないため薬がもらえないという大問題が起きたのですが、 お薬手帳を持っていたごく一部の人は特例的にそれまでと同じ薬を受け取ることができました。
これをきっかけにお薬手帳の利用が全国的に広まっていきました。
そして2000年には、調剤報酬の中で厚生労働省がお薬手帳を認めて推進されるようになったのです。

第二幕

当時のお薬手帳は、飲んでいるお薬の内容を書くだけの簡単なものでしたが、ソリブジン事件のような薬害を防いだり、 お薬が重なってでていないかを薬剤師がチェックするために大変有効であり、 徐々にその必要性が認識されていきました。
しかし広まってきたとは言え、お薬手帳を持つのが当たり前というまでの状況ではなく、ずっと薬を飲んでいて必要性を理解できた一部の人だけが持っているという段階でした。
そのころお薬手帳が広がることを妨げていた要因の一つは、 当時のルールでは薬局でお薬手帳に記録してもらうとお薬代が少し高くなるということがあったと思われます。
そんな状況の中でも少しずつお薬手帳は一般的に広がりつつありましたが、 そのときお薬手帳にとって歴史的なことが起きました。 2011 年の東日本大震災です。
東日本大霊災では、阪神淡路大震災とは比較にならないほどの多くの被災者が発生し、そこでお薬をもらうために多くの人がお薬手帳をもっていたことが大変大きな役割を果たしたのです。
国も、医師や薬剤師も、お薬手帳が診療や調剤に不可欠なものと認識するようになり、2014年には調剤報酬の改定でお薬手帳の利用を薬歴管理料算定の必須の条件とする大改革が実施されました。
これは画期的な変更でしたが、 実は大きな問題を含んだ内容であったのです。

第三幕

2014 年の改定ではお薬手帳が薬歴管理料算定の必須の条件となりましたが、 金額的な面ではお薬手帳を持参して記載した方が、持参しなかった場合より高くなるという内容で、過去からあった金額問題をさらに大きくするような結果となっていました。
マスコミが、 お薬手帳を自分で書いた方がお薬代が安くなるなどというネガティブな情報を流したり、 ごく一部の薬局ですがお薬手帳を持ってきてない患者様に強制的に毎回手帳をお渡しするというような問題行為もおきてしまい、 せっかく必要性が認識されたお薬手帳の普及がマイナスの印象をもって受け止められることになってしまいました。
そんな中でもお薬手帳は着々と進化し、処方内容だけでなく、過去の病歴や副作用歴を記録し、 貴重な治療の記録として活用されるようになりました。
お薬手帳には、薬剤師が 「お薬の名前」「用法・用醤」「薬を渡した日」など、 お薬に関する大切な情報を記入します。 患者様自身が、「副作用歴」「アレルギーの有無」 「過去にかかった病気」などを追加することもできます。
また、スマホの普及とともに電子お薬手帳も開発され、紙のお薬手帳がなくてもスマホがあれば、 そのアプリとして飲んでいる薬がすべて分かるようになってきました。
電子お薬手帳は持参忘れの心配もなく、 データがサーバーにバックアップされているなどのメリットがありその後積極的に推進されていきます。
2016年の調剤報酬の改定では、 前回の問題を踏まえて、 お薬手帳を持参する方がお薬代が安くなるように逆転の改定が行われたことで、 ようやく多くの人がお薬手帳をもつことが進み一般的に受け入れられるようになったと思われます。

第四幕

ソリブジン事件から実に23年以上が経過して、 今、 お薬手帳は医療の中で欠かせない記録として一人1冊もつのが当たり前の時代になってきました。
お薬手帳の歴史としてはようやく成熟期にはいったと言えるでしょう。
お薬手帳の形もサイズもいろいろで、普通の手帳サイズから、カードサイズのものもあり、使う人の利便性に合わせて選択できるようになってきました。
スマホを使った電子お薬手帳については、利用が増えてきた一方で、使ってみると内容を病院に伝えにくいことや、自由な書き込みができないなどのデメリットもあり、紙のお薬手帳と併用することのメリットが一番大きいと見直されるようになってきました。
現在のお薬手帳を取り巻く課題としては、 いまだに複数のお薬手帳をもっていて一冊にまとめていない人がいたり、 まだお薬手帳の利用を拒否する人もおられます。
また非常に重要な個人情報の記録となりますので、 取り扱いには十分な注意が必要です。
このようなお薬手帳ですが、 自分の身を守るために必ず1冊持っておきましょう。
今後、 お薬手帳が活用されて薬の副作用で苦しむ人が減ることを心から期待しています。

最後にまとめとして

お薬手帳の活用方法は?

  • いつもの病院や医院、 歯科医院、 薬局に行ったときに毎回提出しましょう。 二か所以上の医 療機関を受診するときには特に大切です。
  • アレルギーのある事、 以前に薬で副作用を経験した事、 長期に治療している病名や、 今まで にかかった病気の記録を記入しておきましょう。
    薬を飲んだ後の体調変化を自分で記入できます。
  • 購入した一般薬品も記入できます。

 お薬手帳は役に立つの?

  • いつも飲んでいる薬を記録しておけば、 別の医療機関を受診する時に、 一緒に飲んでも安全か確認してもらえます。 災害や急な病気やケガ、 旅行の時などに適切な治療が速やかに受け られます。
  • 飲みにくい、 錠剤が大きすぎるなど、 気になるけど言いにくいことを記入することもできま す。 お子様の場合など、 粉薬の味や苦みについいての記録を残すとよいでしょう。

記録は持ち歩く必要あるの?

  • 以前に副作用が出たり、 体に合わなかった薬はその場でチェックできます。 薬の重複を防いだり、 飲み合わせの確認が速やかです。
  • 一般薬品、 サプリメント購入の際にも利用してください。

お薬手帳

お薬手帳は処方せんを持って行った薬局で作ってもらえます。次回以降、 病院や薬局に行く際は、 必ず持参しましょう。